ので、真暗い中から物を言っている先方の種仕かけを、上目づかいに吟味しているものらしい。
 こういう奴になると、真暗闇の中を見込んで、物を見る眼力がかなり修練されているものです。夜を商売とするこいつらの眼で見ると、室内のからくりにも相当の当りがつかなければ商売になるまい。ところが――かりにその眼力を以てしてからが、眼の届かないのは、六枚屏風が一つ眼前にわだかまっていて、応対を遮断していることでした。暗を見透す眼があっても、屏風一重を見抜く力はない――そこで少々まごついていると、屏風の中から、
「いったい、いくらで売りたいのだ」

         八十一

「へい、いくらと申しましても、その――あっしらは、この方にかけてはズブの素人《しろうと》なんでげすから、こいつはこのくらいということは申し上げられません、おめききを願った上で、この品にはこのくらい、この野郎にはこのくらいの貫禄のところを恵んでやれ、とお見込みだけのものなんでございまして」
「なるほど――盛光ならば相当のところだ」
「それに、なんでございますな、さいぜんから申し上げる通り、こしらえが大したもんでござんしてな、要所要所とこ
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