の定紋は金無垢《きんむく》でございますぜ、つぶしに致しましても……」
「なるほど、中身が盛光で、金無垢の飾りがついている、やっぱり相当のものだ」
「まあ、ひとつ、とにかくお手にとってごらん下し置かれましょう」
「見るに及ばない、なるべく奮発して買ってやろう!」
「有難い仕合せ――旦那は話がわかっていらっしゃる」
「お前の言う通りを信じて買ってやるのだ、盛光の中身と、金無垢の飾りだな――」
「さようでございます。なお、その道の者にお見せ申しましたならば、彫《ほ》りが後藤だとか、毛唐だとか、縁頭《ふちがしら》が何で、鳶頭《とびがしら》がどうしたとか、目ぬきがどうで、毛抜がこうと、やかましい能書《のうがき》ものなんでございましょうが、何をいうにも三下奴、そんなことは申し上げられません。いっさいコミで、突っくるみで買っていただけば結構なんでございます」
「よしよし、万事相当なものとして買ってやる」
「いや、どうも、旦那は話せます、気合に惚《ほ》れました、失礼ながらお見上げ申しやした、そうさっぱりおいでなすっていただいてみますてえと、こっちも男でございます」
「買ってやる、買ってやる」
「それか
前へ
次へ
全551ページ中225ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング