いますよ、もっと右から左へ融通の利《き》く、山吹色の代物ってやつをたんまりと頂戴に及びたかったんでございますがねえ、いや、さすがに、大身の旦那だけあって、お身の廻りの厳しいこと、御当人は鷹揚《おうよう》のようでいて、更に御油断というものがございません、それにあなた、附添のが野暮な風《なり》こそしていらっしゃるが、これがみんな相当、腕に覚えもあれば、眼のつけどころも心得ていらっしゃるんで、さすがにこのがんりき[#「がんりき」に傍点]――」
と言いさして、ちょっとばかりテレたが、テレ隠しに続けて、
「さすがに、この三下奴の手にゃ合いませんで、初手《しょて》の晩の泊りには、瓦っかけをしこたま掴《つか》ませられちゃいやして、いやはや、その名誉回復と心得て、二度目に出かけてみやしたが、用心いよいよ堅固、命からがらこの一腰だけを頂戴に及んでまいりやしたが、明晩あたり、改めてまたお礼に上らなけりゃなりません」
「いったい、わたしのお父様はどこにいらっしゃるのです」
と、お銀様の方から改めてたずねました。
七十八
「あなた様のお父様には、わっしゃ、美濃の関ヶ原でお初にお目にかかり
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