わかりましたら、あなた様に相当のお値段でお買上げが願いてえ、なあに別段、いくらいくらでなけりゃあならねえと申し上げるわけじゃございません、お目の届きましたところで手を拍《う》ちやしょう」
「どうして、お前がこれを持っているのです、ところもあろうに、こんなところまでこれを持って来た筋道がわからない」
「へ、へ、へ、筋道とおっしゃいましても、甲州から諏訪《すわ》へ出て、木曾街道を御定法《ごじょうほう》通りに参ったんでございます、あなた様の親御様でいらっしゃる伊太夫様のお枕元から、このしがねえ三下野郎が直々《じきじき》に頂戴して参ったんでございますよ、どうかひとつ、思召《おぼしめ》しでお買上げを願って、それを三下奴の路用に恵んでいただきてえんでございます」
「どうして手に入れたか、それを言ってごらん」
「どうして手に入れたかってお聞きになりますが、これだけの品を頂戴いたすまでには、相当の苦心てやつもあるでござんしてな」
「それを一通り話してごらん、筋が立ちさえすれば、買ってあげないものでもない」
「実はねえお嬢様、あなたのお父様とお見かけ申して、こんな品物をいただくつもりじゃなかったんでござ
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