この大菩薩峠作中の人物では、宇治山田の米友という人物が、やはり同様の堪忍なり難い癇癖を持っていて、直接行動をやることに馴れている――それは田山白雲とも一面の識はあるのだが、あの男が今この場へ飛び出して来ようはずはない。
右の裸男は、最初のうちは、こちらを当面《まとも》に川を横に泳いで来るのですから、よくわかりませんでしたけれど、やや深いところへ来ると、身を斜めにして抜手を切り出したものですから、その時はじめてわかったのは、頭の上に自分の着ていた衣類をまるめて帯で顎《あご》まで縛りつけたのはいいが、その頭にのせた衣類の真中を貫いて横に一本、長くてそうして黒いものが線を引いている。
「ははあ、差しているな」
と、田山白雲が再び遠眼鏡を取り上げました。
差しているな! と言ったのは、一本か二本差しているという意味ですが、一本差すことは、旅の百姓町人といえども、道中を限り許されていることであり、それにも長さに限度がある。あの裸者の頭へ載せたのは、普通平民に向っては制限以上に長いから、少なくも士分に属するものだろうと思われるのだが、その一本の刀の長さが長過ぎるのに比例して、他の一本の脇差の
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