その大床の床板の上へ持って来て、三人がおのおの胸いっぱいに抱えていた物を置き放してしまいました。その抱えて来たものは、提灯《ちょうちん》の古いのを重ねて括《くく》ったのや、さしに刺した銭を幾貫文となく、つまり、今までの鼠の巣の上へ、また鼠の巣の材料を加え、お銀様の神経を不快ならしめている上へ、また不快を積むのでありました。さりとてこの人たちは、みんな善良な、質朴な人たちで、画を冒涜《ぼうとく》せんがために、お銀様をイヤがらせんがために、そうしているのではない、画を認識しないのだ。画を認識する力が無いというよりも、床の間と物置との差別がつき兼ねているのだ。
ところで、なおあとからあとから鼠の巣が持来たされ、ついに、牡丹と唐獅子の一角を埋めようとするに至ったから、お銀様が、つい、こらえられなくなりました。
六十七
お銀様が堪《こら》えられなくなったといったところで、あえて宇治山田の米友のように直接行動に出でられるはずもなし、また、ここは自分の王国ではないから、命令だけを以てしても行われようはずはなし、この人たちに事を分けて言い聞かしてみようというほどの気にもなれず
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