をまわしている。
そうして置いて、黒い覆面が後退する。あとに残る犬共が、先後を乱して飛びかかる時分には、鼓楼の後ろの闇へ黒い姿は隠れてしまいました。
餓えたる犬共は、血迷い尽している。今までの単純な餓えと憤りのほかに、兇暴な復讐性と、先天的の猛獣性とが入り乱れて、相手の一人をあくまで追究して、その骨をまでしゃぶらなければ甘心《かんしん》ができないという執念に燃え出している。
ところが、鼓楼の背後でちょっと相手の姿を見失ってしまうと、犬共は塔に飛びつき、石に向って吠え、木の根にかぶりつき、※[#「けものへん+言」、第4水準2−80−36]々囂々《ぎんぎんごうごう》として入り乱れながらも、影の見えない相手を追い求めて狂い廻っている。
この際、あの食べ頃な赤ん坊の肉体が忘れられていることだけが勿怪《もっけ》の幸い。
かくて、最後にあの裏門、すなわち台所門のところでありました。そこで、再び黒い覆面の姿を追い求め得たりと見ると、餓えたる犬が、また一斉に牙を鳴らしてしまいました。
黒い姿は、たしかに裏門まで追いつめられた形でした。
そこで一刀にズバリと一頭の犬をまたも真向《まっこう》
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