一頭が勢い込んで飛びかかったのを、ズバリ斬りました。
今度は竹の杖とちがって、致命的でした。斬ったというよりも、脇差を抜いて手軽く構えたところへ、犬が斬られに飛びかかったようなもので、顎《あご》の下から腹へかけて、鰻《うなぎ》を裂くように斬られた犬が、異様な叫びを立てて地に落ちると、もう動きません。
そうすると件《くだん》の黒い姿は、片手で軽く刀を構えたまま後退するのを、第二の犬が飛びかかった途端に、口が落ちました。ちょうど、狐の面のガクガクするあの部分だけが切って落されて地にあるのですから、鳴きかけた声の半分は地上で鳴き、半分は咽喉《のど》からはみ出したままで倒れて、仰向けに烈しく四足を動かしている。
そうして置いて、黒い影はなおじりじりと後退する。それをすかさず追いかけた第三の犬は、真向《まっこう》を二つに割られて、夥《おびただ》しい血をみんな地に呑ませて、へたばってしまいました。黒い影は、こうしてまた鼓楼の方へと後退する。
第四の犬が飛びかかるのを、脇差をちょっと横にすると両足を切って落してしまったから、二本足の犬が地上に不思議な恰好《かっこう》をして、鳴き立てずに眼
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