んくると微笑《ほほえ》みをしていたのですが、この時はゲラゲラと笑い出しました。星は人の微笑を誘うかもしれないが、ゲラゲラ笑いをもたらすことはない。子供が急にゲラゲラ笑いをやり出したのは、疳《かん》のせいで、笑神経の箍《たが》がゆるんだのか、そうでなければ、対象物が変ったのだ。
なるほど、この幼な児の眼のつけどころが違っている。さきほどは天空を仰いで星のまたたきを見ていたには相違ないが、今は別に――凄い女の頭の上にのせた鉄輪の上で燃えさかっている蝋燭の火を見て、この子はゲラゲラと笑い出したのでした。
幼な児からゲラゲラ笑われて凄い女は急にひとみを返して、子供のいる方を見ました。
この時はじめて、世にも親にも棄てられた人間の子が一人、宇宙間の夜に置き放されていることを認識したかのように――
そこで、女もずかずかとこの籠の傍に寄って来ると、傍へ寄るほどこのおさな児が喜びました。というのは、その歓笑の目的物たる頭上の火が、いよいよ近くなったからです。
「まあ、赤ん坊が捨てられて――」
女がすべての昂奮から、しばしさめて現実の世界を見せられた時、幼な児は、いよいよ超現実の人となって、
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