―というのだから、物凄い形相であって、であうほどのものが倒れ死んだというのも無理はない。
 それ以後、藁の人形を加えたのは、いつの時代に起ったか知らないが、この丑の刻まいりの行者は、女に限ったものである。嫉妬が女の専売物である限り、藁の人形と、五寸釘と、丑の刻まいりを、男はやらないことになっている。
 ここでも、最初からの女人が、藁人形を型の如く釘づけにして、そうして意気揚々として松の木の頂《いただき》から降りてまいりました。ただ、藁の人形をこうしてリンチに行って来たことだけに於て、もうこの女は相当に、復讐と勝利の快感に酔っているらしい。
 頭の鉄輪にのせた蝋燭《ろうそく》を消すことはまだ忘れている。そのままで木の幹の下に彳《たたず》んで木の上を見上げたが、その女は色の白いいい女でした。その女が嫉妬と報復と、虐殺と勝利とに酔うた面《かお》を、蝋燭の火にかがやかして、深夜の樹上を見上げるのだから、相当凄いものになっていなければならぬ。さてまた、それに程近いところに捨てられた幼な児は、この時、また何に興を催してか、急に機嫌が直ってゲラゲラ笑い出しました。
 さきほどは、星を数え、ちんくるち
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