相応な装飾を施し、できるだけの保護を加えた上で、捨てるのを習いとする。
今、捨てられた子を見ると、相当の籠《かご》の中に入れて、その周囲《まわり》をまだ新しい、特にこの子を捨てなければならないために手製したと思われる小さな蒲団《ふとん》をしいて、その上に、縫目も縞目も新しかるべき仕立卸しの衣服をもって固く夜風をさえぎっている。なおそのほかに、籠の左右にこぼれたものを見ると、でんでん太鼓だの、風車だの、ピーピーだの、おしゃぶりだの、そりいうものが積まれているのみか、徳利の頭へ管《くだ》をつけて、その管の一端が、子供の口許にまで導かれて結えられている。
つまり、こうして棄てて置いて、棄てた主は早くも姿をくらまし、棄てられた子は、その当座だけは、徳利の乳の甘さに我を忘れてほほ笑んでいたと見えたのが、今それに飽きてみると、はじめてわが身の孤独を感じ、親を呼んでみたが、いつものように温かい手を与えてくれないところから、急に咽《むせ》び泣きを立てたものらしい。
しかし、しくしくと泣いたが、暫くするとまた黙ってしまいました。この子は性質のおとなしい子であるけれども、やがてまた、わっ[#「わっ」
前へ
次へ
全551ページ中150ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング