貫と言っても、貨幣史上の相場には、非常な動揺があるのですから、一概には言えないが、ともかく、こうして黄金であるところの小判というものがあり、一朱二朱の銀判があり、それからザラ銭が相当小出しにしてあるところを見つくろっても、無慮百以上の両目は確実なのですから、そこで絶叫しました。
なあに――百の野郎とても、相当に悪党がる奴なんですから、僅か百両や百貫で度を失うような真似《まね》はしたくはないのですが、何をいうにも、前には大物と踏んだところのものが瓦っかけと化したその反動に加えて、今度は鬱金木綿がこれだけのものを呑んでいたのですから、その上り下りに度胆を抜かれただけのものでしたが、ややあって、急にやにさがって、どんなものだという面《かお》をして、
「だろうと思ったんだ、あれだけの同行のうち、あの作男の草鞋《わらじ》だけが、ちっと切れっぷりが違ったところを見て取った、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百の眼力に狂いはねえんだよ」
その言葉が、お蘭どのにはよく呑込めない。
「どうしたというんだね」
「いや、どうもこうもありゃしねえ、お蘭さん、お前はこいつを持って一足先に行きな、おいらあまた
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