の手を見ると、矢を射るように――と言いたいが、川の流れを横切るのだからそうもいかないが、かなり勢いこんで彼方《かなた》の岸から早舟が飛んで来るのを認めました。続いて通常の渡し船が、スロモの腰を上げて、こちらへ向ってやって来るのを認めました。
 そこでまた踏みとどまって、遠眼鏡を取り直して、まず早舟の方を見ますと、中には相当の士分が、同心と、村役人のようなのとに附添われて乗込んでいるのを認めて、何か役向の出張だなと感づきました。
 同時に、役向とすれば、いずれの藩の役人か。自分はすべて仙台領とばかり信じて、ここまで来ているのだが、川一つ向うは、もう南部領にでもなっているのではないか。仙台領と南部領とは、かなり入組んでいると聞いたが、領分が違ってくると、これで自分の旅をする気分も相当に変えねばならないことがあるものだ。
 漂浪を生活としている自分は、習い性となって、これでおのずから、郷《ごう》に入《い》っては郷に従うのコツを覚え込んでいる。仙台領へ来ては、仙台領の人となりきったつもりでいるが、まだ南部領の人となった心構えは出来ていない。今ああやって、早舟でやって来る役人が、仙台領の人である
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