お雪ちゃんに笑い消されたにも拘らず、米友がそれからまた、何かじっと一思案をはじめて、炉に赤々と燃えている火に眼をつけて放たなかったのは、やや暫くの間のことで、やがて、その面《かお》を上げて、眼をまたしてもお芋の皮をむくお雪ちゃんの手許《てもと》に据えながら、
「お雪ちゃん、お前《めえ》はお嫁さんに行く気はねえのかい」
「いやな米友さん」
 お雪ちゃんは、はにかんだけれども、米友はまじめなもので、
「おいらは、思うがな、お雪ちゃん――若い娘は、なるべく早くお嫁に行った方がいいと思うんだが……」
「まあ、米友さんが、お爺《とっ》さんのようなことを言い出しました、ホ、ホ、ホ」
「おいらは、ため[#「ため」に傍点]を思って言うんだぜ」
「それは、わかってますけれどもね……ホ、ホ、ホ」
 若い娘はなるべく早くお嫁に行った方がいい、つまり虫のつかないうちに、恋愛を知らないうちに結婚せしめよ……主婦之友の相談係でも言いそうなことを、米友の口から聞かされることが、お雪ちゃんには予想外だったのか。但し、相手はいわゆるため[#「ため」に傍点]を思ってくれて、親切に言い出されたものに相違なかろうが、お
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