って追いかけるなんぞは醜態千万だから、こういう時の用心に、僕は僕だけの死に方がちゃんとあらかじめ附いているのだ」
「そうか」
「僕は、かねてより今日あることを慮《おもんぱか》って、ここにこれ、舶来の硫酸という劇薬が一瓶仕込んである、これを、ちょっとあおると五臓六腑が焼け爛《ただ》れて、完全に生命が解消される、腸《はらわた》を沁《し》み込んで行く間はかなり苦しいそうだが、切腹とどちらか、その苦痛の程度の比較は知らないが、やり損いなしに死ぬることは請合いなのだ、そこで、君が腹へ刀を突き立てると同時に、こいつを僕が一滴ずつ口中へ垂らし込む」
と言って、荷物の中からグロテスクな小瓶を出して見せる。
「うーむ、面白いな、貴様もなかなか馬鹿でない」
「話がきまったら、心静かに――しかし、善は急げだ」
こう言って、丸山勇仙は毒薬を下に置き、仏頂寺と同じように、羽織を脱いで草原の上に敷きました。
十六
やがて、仏頂寺が刀を腹へ突き立てると同時に、丸山勇仙が小瓶を口にグッと仰ぎました。
「仏頂寺、痛いだろう」
「うむ――」
と言いながら仏頂寺は、その刀を引き廻し、
「丸山、薬は
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