然そう行かなけりゃならないはずのを、なぜ、みっともない狼狽《うろた》えぶりをして見せたのか、今となって不思議だ、多分お前の言う通り、先手を打たれた死神の奴が狼狽して、お前にはとりつけないから、おれの手を借りて、お前の勝利を攪乱《こうらん》しようと企てたのだろう、もう、わかったよ、死ぬよ、お前と一緒に、おれもこの峠の上で、今日只今、死んで見せるよ」
「は、は、は、は」
「お前だって人の留立てを差しとめておきながら、おれの死ぬのをよせとは言えまい、おれだって影の形に添うが如く、これまで亡者うろつきにうろついて来て、お前を死なして、これからひとり旅ができるものか、できないものか、つもりにもわかりそうなものだ。そのつもりにもわかるべきことが今までわからなかった、死神めに攪乱されていたのだ」
「そう事がわかったら、おたがいに、生の自由と死の自由を尊重することだ」
「善は急げだ――話がきまったらぐずぐずしないがいい。ところで、仏頂寺、お前は剣を以て世に立って、剣で果てるのだから切腹が当然だが、僕の方はそうはいかない、剣道が本職ではなし、万一切り損なって、お前に最期の道を先立たれ、あとからのたうち廻
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