、薬は利《き》いたか」
「まだ何ともない、痛みの至る程度から言えば、お前のとは比較になるまい、あ、それにしても胸が変だ、腹が痛い」
「しっかりしろ」
「仏頂寺、痛いだろう」
「そりゃ、痛い、腹も身のうちと言うからな」
「我慢しておれも……」
この時分に、丸山の腹に硫酸が浸漸《しんぜん》をはじめたらしく、
「苦しい、思ったより苦しい!」
と叫びましたが、
「がんばれ!」
と仏頂寺が声をかけると、丸山は、
「ああ、この苦しみは別だ、まるで五臓六腑が焼け出したようだ、噴火山から熔岩が流れ出して村里をのたうち廻るように、腹の中を熱いものが引掻《ひっか》き廻す、仏頂寺、おまえのも楽じゃあるまいが……」
「楽じゃない――」
「俺のは苦しい、同じことなら、腹を切るんだった、こんなに……毛唐《けとう》の薬がこんなに利くとは思わなかった、苦しい!」
「愚痴を言うな」
「たまらない――誰か早く引導を渡してくれ」
「我慢しろ」
「うむ――」
丸山勇仙は、しっかりと大地につかまって堪《こら》えている。仏頂寺は全力をこめてキリキリと刀を腹の中へできるだけ強く突きこんで引掻き廻してえぐりながら、苦しがっている
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