さき仏頂寺弥助が、何故に生きていなけりゃならんか、その講釈をして聞かせろ」
「むずかしいことを言うなよ、いま死ぬくらいなら、もっと早く相当死場所もあったろうじゃないか、ここまで来たんだから、もう少し延ばして、相当準備をととのえてからにしちゃあどうだ、相当の準備期間を……」
「生きて行くには相当の準備もいるだろうが、死ぬに準備は要らない、出たところ勝負で結構」
「だって、そりゃ、あんまりあっけないこった、せめて――明日まで延ばしてくれよ、明日まで……明日になると、また何か風向きが変らぬとも限らん。仏頂寺、貴様は今、不意に死神《しにがみ》にとりつかれたんだ」
「は、は、は、死神にとりつかれたんじゃない、死神を出し抜いてやるのだ、死神という奴は、いつも人を出し抜いて狼狽《ろうばい》さすから、今日はひとつ、仏頂寺が先手を打って死神を狼狽させてやるのだ――は、は、は、丸山、そういうお前の面に死神がのりうつっているよ」
「冗談いうない、冗談いうない、おりゃまだ死ぬのはいやだよ」
「だから、生きて、介錯《かいしゃく》を頼むとは言わない、仏頂寺の最期を、おとなしく、ちゃんと見届けていてもらいたいのだ。
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