は、彼が第三次の事業として、畳紙《たとう》をひろげて二つに折り、それから刀を取って膝の上に置き、やおら鞘《さや》を外《はず》してしまって、その程よきところを畳紙に持添えて構えたのが、どうしても切腹に取りかかるもののふ[#「もののふ」に傍点]の作法とよりほかは受取ることができないので、丸山勇仙が眼の色をかえて仏頂寺の膝にとりついた時に、仏頂寺は、
「何だ、丸山、貴様とめるつもりか、拙者が覚悟をきめて、尋常に死にくたばろうとするのを見て、いまさら貴様が留立てをしようとするのは奇怪だ、留めるなら留めるだけの意義と理由を以て留めろ」
仏頂寺弥助が傲然《ごうぜん》と叱咤《しった》するのを、丸山勇仙はテレきって、
「意義も理由もありゃしない、予告なしに眼前で腹を切ろうという奴を、友人の身として見ていられるか、いられないか。僕に向って留めだてをする意義と理由とを求める前に、仏頂寺――君はなぜ、今になってそう急に腹を切らなければならないのか、かえってその意義と理由を示せ」
「その意義と理由がわかるくらいなら、腹を切りゃせぬ、それがわからないから腹を切るのだ、貴様、留めるのなら留めるでいいが、これから
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