酒が尽きた。
「丸山――おれは死ぬぞ、どう考えても生きる口実を見失ったから、これから本当に死んで見せるのだ、検視をつとめさっしゃい」
と言って仏頂寺弥助は、着ていた羽織を脱ぎにかかりました。
「本当に死ぬのか」
「うむ――見ていさっしゃい」
「冗談じゃなかろうな」
「冗談から駒の出ることもある、いのじ[#「いのじ」に傍点]ヶ原の時だってそうだ」
「今は、どうするつもりだ」
「どうもこうもありゃせん、お前は、ただ黙って最期《さいご》を見届けていさえすりゃいいんだ」
「仏頂寺、いやに真剣だな」
「真剣だとも」
羽織を脱ぎ終った仏頂寺弥助は、それを草原の上に敷いて、その上に、草鞋《わらじ》をぬいでどっかと座を占めたものです。
「仏頂寺、変な真似《まね》をするなよ」
丸山がようやくあわてだしたが、仏頂寺弥助はそれに取合わないで、その次の仕事が内ぶところへ両手を入れ、おもむろに諸肌《もろはだ》を脱いでしまったところです。
「風邪をひくよ、風邪を、変な真似をするなということよ」
「いいから、黙って最後まで見届けるんだ」
「な、なにをする!」
丸山勇仙が、非常に狼狽して仏頂寺の膝にとりついたの
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