さあ、もう覚悟はきまった、放せ、放せ、離れていろやい、丸山勇仙――」
「だって仏頂寺、二人ともに影の形に添うが如く、これまで来て、それを両人覚悟納得の上なら知らぬこと、今日突然、貴様だけが死ぬというのに、この丸山が指をくわえて見ていられるか」
「見ていられなけりゃ、どうするのだ」
「どうするったって、まあともかくも一応、思い留まってくれ給えよ」
「思い留まれねえ、こうなって思い留まれる仏頂寺だと思うか。思い留まらないときまった上は、貴様はどうする……」
「どうするも、こうするもありゃしない。腹を切ります、はいお切りなさい、友人としてそれが言えるか、言えないか……」
「言えなけりゃ、どうしようというのだ、一匹一人の男が死のうと覚悟したものを、貴様の痩腕《やせうで》でどうしようというのだ」
「理窟を言うなよ、理窟を――」
「理窟ではない、貴様がどうしても無用の留立てをして、ここで拙者の往生際《おうじょうぎわ》を邪魔立てしようというなら、してみろ、足手まといの貴様から先に叩き斬り、仏頂寺は心置なく腹を切って死ぬまでだ」
「いやに恐《こわ》い目をするじゃないか。仏頂寺、君がそれほどまでに死にた
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