暇もなく、おいらはこうして追いかけて来たんだが――なんにしてもこっちに責任のある馬には馬なんだから、詫びろと言えば詫びらあな、あやまれと言えばあやまってやらあ――それをお前、何もこっちに一言も言わさねえで、両岸から挟みうちにして竹槍で突っつき殺そうたあ酷過《ひどす》ぎる!
 タカが一頭の馬の畜生のことじゃねえか――まるで、これじゃ戦《いくさ》だ――まさかこの馬が千両からの金を積んでいることを知っていて、それを取りてえから、ああして人数を集めたわけじゃあるめえ。そうだとすれば、村中が心を合せて切取り強盗を商売にしているようなわけのものだが、今時そういう商売の村というのはあるめえ。第一、この馬が千両からの銭金《ぜにかね》をつけているかいねえか、それまで見きわめちゃいめえがな。
 おやおや、来るよ来るよ、本当にやって来るぜ、あの通り若い奴が、竹槍を持って、こっちの岸からも御同様。さあ、もう仕方がねえ、こうなったからはこっちも了見をしなくちゃならねえ。
 米友は川原の真中でじだんだ[#「じだんだ」に傍点]を踏みました。同時に、両方の岸から、すさまじい鬨《とき》の声が起りました。
 竹槍をしごい
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