引返した方の奴が、悪口を言ってこっちへ石を投げかけるてえのは、わからねえ理窟じゃねえか。
こういう人気の土地か知らねえが――こんなことは初めてだ、一匹の馬のために、まあ、見るがいい、後から後からとあの人出は、村方総出だ。
おやおや、竹槍を持ったのが、バラバラこっちへやって来るぜ。
また、向う岸からも竹槍を持った奴が、バラバラとこっちへやって来るぜ。いったいどうしようてえんだ、このおいらと、馬とを、両方から挟み討ちにして、あの竹槍で突っつき殺さずにゃ置かねえという了見《りょうけん》か――それはいよいよわからねえ。第一、この馬とおいらが、何を悪いことをしたのだえ。
馬はやみくもに駈けたばっかりだ、おいらはそれを追っかけて来たばっかりなんだ、老人《としより》子供《こども》の一人にだって、怪我あさせたわけじゃあねえんだ。村を騒がせて済まなかったといえば済まなかったに違えねえんだから、その点はおいらだって詫《わ》びをしろと言えばしねえとは言わねえよ。なにもこっちも好きこのんで、馬を飛ばしたわけじゃねえんだ、馬が何かに驚いて飛び出したんだ、何に驚いたんだか、そんなことはまだ原因をたしかめる
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