た両岸の先陣五六名ずつが、その声に煽《あお》られて、奔馬《ほんば》のような勢いで、米友をめがけて――事実、米友としては、そう見るよりほかに見ようがない――両方から殺到し来《きた》るのです。
こうなると米友は、もはや、じだんだ[#「じだんだ」に傍点]だけでは許されない。
もういやです。米友としてもこんなところでまたしても武勇伝は現わしたくはないのですが、実際、身に降りかかる火の粉は払わなければならない。払って置いて相当の弁明が聞かれなければ、もうそれまで――そういう覚悟をきめることには未練のない男です。
そこで、足場を見計らってお手のものの杖槍を二三度、素振《すぶ》りをしてみてからに、懐中へ手を入れると、久しく試みなかった菱《ひし》の実のような穂先を取り出して、しっかとその先を食いこませたものです。
その時また、わあっ! と両岸で山の崩れるような鬨の声。
三
全く理不尽千万な、乱暴至極な、前後から一応の弁明もさせずに、竹槍の槍ぶすまを作って、米友一人と、駄馬一頭とをめがけて襲い来《きた》る暴挙。これは甲州街道の雲助でさえもあえてしなかったところの兇暴です。
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