ている」
「うむ」
「勝麟《かつりん》は、勤王と倒幕の才取《さいとり》のために生きている」
「うむ」
「岩倉|具視《ともみ》は、薩長を利用して、薩長に利用せられざらんがために生きている」
「うむ」
「土佐の山内や、肥前の鍋島は、薩長だけに旨《うま》い汁を吸わせてはならないために生きている」
「うむ」
「会津、桑名は、徳川宗家擁護のために生きなけりゃならん」
「うむ」
「さて、それから宇津木兵馬は――」
「は、は、は、少し、人物のレヴェルが変ってきたな」
「宇津木兵馬は、兄の仇を討たんがために生きている」
「うむ」
「お銀様という女は、父に反抗せんがために生きている」
「うむ」
「机竜之助は、無明《むみょう》の中に生きているのだ――ところで、仏頂寺弥助と、丸山勇仙は、何のために生きているのだ」
こう言って、仏頂寺弥助のカラカラと笑った声が、またもすさまじく、森閑たる小鳥峠の上にこだましました。
「松茸の土瓶蒸を食わんがために生きている、あッ、は、は、は」
と合わせた丸山勇仙の声も、決して朗かな声ではありませんでした。
十五
その後、かなり長いあいだ沈黙が続いたが
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