目です、わたしの心意気で、あなたに貢《みつ》ぐお金なのですから、お受けにならなければ男が立たないってことになるのよ」
「いったい、君はどうしてこれだけの金を持っているのだ、不相応の金だ、君にとっても不相応だし、拙者にとっても不相応だ――これはどこからどうして出た金だ、その出所がわからぬ間は、拙者として、めったに手に触れるわけには参らん」
「そうおいでなさるだろうと思っていましたわ。それは、わたしが持って来たからといって、わたしのお金でないことはわかりきっていますわねえ。わたし風情《ふぜい》で、これだけのお金をふだんこうして肌身につけていられるくらいなら、こんな稼業《かぎょう》をしておりません、これはお他人様《ひとさま》のお宝なのよ。でも、御安心くださいまし、お他人様のお宝には違いありませんけれども、それは、いわばわたしたちに授かりものなんですから、二人で思うように使ってしまってかまわないたちのお金なんだから……そこでわたしのものはあなたの物、あなたの物はわたしの物という寸法になるのよ、嬉しかなくって?」
「なんだか、君の言うことは論理がようわからん――苟《いやし》くも自分の所有に属せざ
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