るものを、無断で勝手に使用して差支えないということはいずれの時、いずれの国の掟《おきて》にもない」
「ところが、あなた、この国の今日の場合には、ちょうど誂向《あつらえむ》きにそういう掟が出来ているのですから、豪勢でしょう――そんなことはどうでもいいわ、手っとり早く、打明けてしまいましょう、実はねえ、宇津木さん、このお宝は、例のそら――お蘭さんのお金なんですよ」
「お蘭どのの?」
「え、え、お蘭さんのうちにあったのを、がんりき[#「がんりき」に傍点]の奴がそっくりわたしのところへ持って来て、預けっぱなし、それなのよ」
「ははあ――」
「ですから、いいでしょう、ちょうど、わたしたちにお使いなさいって天道様が授けて下さったものなのよ、わたしたちが使ってあげる方が、あのお蘭さんや、がんりき[#「がんりき」に傍点]の奴に使わせるより、ぐっと功徳《くどく》になる、またそうでもしてやらなけりゃ、わたしの癪《しゃく》の虫が承知しない」
「ははあ――」
と、兵馬はここで、ちょっと考えさせられました。
十
これは、一種異様なお金の出所《でどころ》だ。
預りものではないが、盗みもの
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