ることはない――ということを聞かされて、与八が安心を加えました。
こういうわけですから、有野村の大尽《だいじん》が京大阪へ向けて旅立ちをなされたという評判は、どこからも立ちませんでした。屋敷のうちの家の子には、日頃から、旦那様がどこにいらっしゃるのか知らない者も多いくらいですから、たまにその気色《けしき》を見かけたものにしてからが、甲府へでもおいでなさるか、遠くてお江戸――いつもの通りせいぜい六日一日もすればお帰りになるものだと信じていたのです。ですから、今度の旅は、無事に行っても、どのみち一月や二月はかかるのだということの暗示を受けたものさえありません。
与八が本家の方へ、当座の留守居に据わり直したということも、日頃の信任から見ても無理のないことですから、主人が出て行っても、そのあとにはいっこう変った空気が漂うことはありませんでした。
八十
近江と美濃の境なる寝物語の里で、いい気でうだっていたお蘭どのの寝込みを、思いがけない奴が不意に襲って来ました。
遊魂は、別な方向に向ってさまよい出でてしまい、その身代りとして現われた奴は、全く似ても似つかない、いけ好
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