令も無条件でありました。何のために、どうして使用するのだ、その使用が経済の法にかなうか、かなわないか、その使用法が倫理の道に合するか、合しないか、またその金を送ったがために、当人の身が幸福になるか、不幸になるか、そんなことは一切頓着しなかったのです。すでに分配して授けてしまったものを、授かった者が持ち去るのは当然である。多く持って行ってはいけない、少なく所有するがよろしいというような条件があっては、人に物を与えたということにはならない。
 与えた以上は、自分の物ではなく、人の物である――という水のように淡い応対で済ましてしまった伊太夫は、また暫く何か思案に暮れていたようだが、急に思い出したもののように、立ち上って下駄をつっかけましたが、どこへ行くかと思うと、いつも、与八の塾をたずねる時に行くと同じ橋の多い小路に隠れたところを見ると、やっぱり、あの悪女塚のなきあとをたずねて見る気になったものかと思われます。

         七十九

 伊太夫は果して、与八塾をたずねて来ました。
 その時、与八塾の生徒はもう放課後で、郁太郎のほかには誰もおりません。
 与八は、一室で一刀三礼《いっとう
前へ 次へ
全439ページ中420ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング