さんらい》をやっておりました。
 そこへ伊太夫がたずねて来たものですから、与八も一刀三礼のことを休んで、そうして、
「旦那様、おいでなさいまし」
と言って、伊太夫を招じて炉辺へ来ました。伊太夫の調子によって、何かそれは、自分に相談事があって、懇《ねんご》ろに話をしたいために来られたのだということが、直ぐにわかったものですから、座を立ったのです。
 そこで、炉辺で茶を煎《せん》じながら、伊太夫の話し出すのを聞いていると、
「与八さん、わしは少し急に思い立って、旅をして来たいと思うのだが、その間、お前さんに頼みたいのは、本家の方へ来て留守番をしてもらいたいのだが」
「おや、そうでございますか、旅にお出かけなさるんでございますか、お江戸の方へでもおいでなさるんでございますか」
と与八が念を押しました。旅と切出す以上は、一晩泊りや二晩泊りの意味でないことはわかっているが、せいぜい江戸出府、ほぼ四十里ばかり――と与八の頭に来たものですから、そのつもりで念を押したのですが、伊太夫は頭を振って、
「いや、そうではない、もう少々遠方へ行ってみたいのだ。実は、娘がな、あの持余し者が上方見物に出かけている
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