上げて仔細に見ようとするのではありません。しばらく、また眼をつぶっていましたが、やがて、軽く眼を開いて言いました、
「送っておやりなさい」
「えッ」
と、老番頭が少なからず動揺したようです。
「送っておやりなさい、貸金の方を今すぐ取立てて送るというわけにもいくまいから、現金の方はあるだけ、そっくり送っておやりなさい」
「え、承知いたしました」
と老番頭は、主人の命令が絶対的であることをよく心得ています。汗の如しとたとえることは畏《おそ》れ多いが、この家の代々の慣例では、ぜひ善悪ともに、主人の言葉は絶対でした。そこで老番頭は、非常な狼狽《ろうばい》をつくろいながら、委細かしこまってしまって、
「では、現金額と致しまして、取りまぜ五万七千三十両ござりまするが、それをそっくり……」
「そっくり送っておやりなさい、為替に組むなり、馬につけて送るなり、いいようにして届けておやりなさい」
「はっ、承知仕りました」
 こうして老番頭は、帳面を抱え直して、また主人の前をすべり出でたのです。
 老番頭の命令服従も無条件でありましたが、五万両からの金を、我儘娘《わがままむすめ》のために支出させる伊太夫の命
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