中を経めぐって来る」
そう言うと与次郎は、直ぐに六部の装束をし、笈物《おいぶつ》をしょって、鉦《かね》をチャンチャン叩きながら、その日のうちにぶんだい(出参)た。
さて、村の周囲《まわり》に聳える山々のうち、どれか一つ越えねばならぬが、それならば第一に親猿をうちとめた山へ登り、まずそのあとをとむらって行こうと、あの清水の湧く山さして登って行った。
すると、あれほど勝手知ったる山でありながら、今日に限ってどう踏み迷ったか、行っても行っても清水のところへ出ないばかりか、ますます奥深く迷い込む様子なので、与次郎は困りきって道端の石に腰を下ろし、
「二十年も歩き慣れたこの山で、道に迷うなんて全くどうかしている、とにかく、少し気を落着けてみず」
と、じっと眼をつぶった。するとどこからともなく、かすかに猿の啼《な》き声が聞えて来る。耳を澄ますと、だんだんこちらへ近づいて来た様子なので、与次郎が驚いて眼をあけて見ると、向うから何十匹とも知れぬ猿が枝に伝わってやって来たが、それが皆、与次郎の前へ坐って一礼した。
おまけにその猿共の一番前に、逃げた手白がいる。手白はふと立ち上り、与次郎の着物の裾
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