増して光輝があり、肌ざわりがよろしく、西洋人は、日本のシルクというと目が無えんでございます、日本のシルクでなければ夜も日も明けぬ、いくら高金を出しても日本のシルクを買いたい、という御執心なんでげすから、有難いもんじゃあげえせんか」
「ふーん、日本の絹がそんなにあいつらには有難《ありがて》えのか」
「有難えのなんのって、全く眼が無えんでございますが、蚕の口から出たシルクでさえ、そのくれえでげす、まして生きたシルクと来ちゃ、命もいらねえということになるのは理の当然じゃあがあせんか」
「何だそれは。生きたシルクというのがあるのか」
「有る段じゃあがあせん、つい、その目の前に……」
「何だ、目の前に生きたシルク、わからねえ、目の前に絹糸なんぞはありゃしねえ」
「殿様も頭《おつむ》が悪くていらっしゃる、それ、目の前に生きたシルクが装いをこらして、控えていらっしゃるじゃあがあせんか」
「何だ、どこに……」
「いやもう、悪い合点でございますな、神尾の殿様、つい目の前に、生きたシルクが、つまりお絹様が……」
「なあに、絹が、お絹の奴が……なるほど、絹は絹に違いない」
「ところがこっちの絹が、当時、本物
前へ
次へ
全439ページ中397ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング