、そうして、御当人のおのろけによると、そのちょっかいというちょっかいが、十のものが十までものになるんだそうだから、やりきれない、キザな奴、イヤな奴――」
福松どのは、がんりき[#「がんりき」に傍点]のことを、噛んで吐き出すように言いだしたけれども、相手が宇津木兵馬だから、あんまり手答えがないのです。
兵馬でなかろうものなら、ははあ、そうかね、そういった色男の本家がこの辺へお出ましになったものと見えますな、ところでその、御当家には、格別の御被害もございませんでしたかね、そのちょっかい[#「ちょっかい」に傍点]とやらの味はいかがなものでございましたか、なんて揶揄《からか》ってみたいところだろうけれども、相手が兵馬だから、そんな軽薄な口を叩くわけにはゆかないのです。手答えが無いだけ張合いも無いと言えば言えるかも知れないが、相手がまたおとなしいだけに、こちらもまた思う存分言ってのけられる自由があると見えて、福松どのはかさにかかりました。
「ほんとにイヤな奴、キザな奴、あのくらいイヤな奴も無いものですけれども、でもわりあいに度胸があるんですよ、お宝の切れっぱなれもいい方でしてね、やっぱり男は
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