ず答えて上げることの代りに、お前がまず、道庵が訊問するほどのことを、まず一ぺん答えてからでなけりゃあ、術譲りをするわけにいかねえよ。その人にあらず、その器《うつわ》にあらざるものに、大法を伝えるというわけにゃいかねえが、どうだ」
「ええ、よろしうございますとも、何でも試験をしていただきましょう、先生のお出し下さる試験問題に及第するか、しないか、そのことは別個と致しまして、知っている限りの御返事だけは、ちっとも御辞退なしに申し上げてしまいますわ」
「よし来た、じゃあ、聞くがな、お雪ちゃん、お前は孕《はら》んだことがあるかい、ないかい」
「えッ」
この剥《む》き出しな試験問題には、充分覚悟をきめていたお雪ちゃんが、慄《ふる》えあがって、二の句がつげませんでした。そうして面《かお》の色がみるみる変り、唇の色までが変って、わななかされている体《てい》は、見るも気の毒なものでした。
六十
これより先、今宵のこの二人の水入らずの会話と討論会が酣《たけな》わなる時分から、この館《やかた》の例の松の大木の根方に彳《たたず》んで、ひそかにそれを立聞きしていた者がありました。
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