質問してみるようでないと、学問は進歩しねえ」
 そこで、まじめに質問をしかけながら、お雪ちゃんが少しおかしくなりました。というのは、いま道庵が、聞くは末代の恥、聞かぬは一時の恥と言ったのは、たしかに比較が顛倒《てんとう》している。正しくは、聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥――と言わねばならないところを、顛倒してしまっているのだから、せっかくの格言俚諺《かくげんりげん》が全然意味を逆転せしめてしまっている。しかも、道庵は下流文士がわざとトンチンカンを言って擽《くすぐ》るのと違って、自分がそれに気がつかないで、頭は正当の意味で、口だけが逆転しているのだから罪はない――まだ初対面早々のことではあり、ことに相手が、自分で気がつかないでまじめくさっているものですから、吹き出してしまうのも失礼の至りと、お雪ちゃんはやっと我慢をして我にかえり、
「世間で子供が生れますと、ただ目出度い目出度いとお祝いをいたしますけれども、本当にそれが母となる人のために、また子供として生れた者のために、目出度いことなんでしょうか。親は子を産むために疲れ、子は産み落されて、世の中に翻弄《ほんろう》されながら生きて行かなけ
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