だから、どうしても舟の連中の耳障《みみざわ》りにならないわけにはゆきません。しかし、誰も進んで、出ないとも出るとも言わないで、舟の装いに忙がしがっているものですから、右のまがいものの法界坊はしつっこく、
「あらおもしろの八景や、まず三井寺の鐘の声、石山寺の秋の月、瀬田唐崎の夕景色、さては花よりおぼろなる、唐崎浜の松をはじめ、凡《およ》そ八景の名所名所の隅々まで、案内はもとより故事来歴までも、一切心得て候、あわれ福徳円満諸願成就の旦那衆、一杯の般若湯と、五十文の鳥目をたびて給べ候え、御案内を致そうずるにて候」
それを聞いて、たまり兼ねた若い者の庄公が、
「何だい、何だい、何をおめえさん、そこでブツブツ言ってるんだい」
「あわれ一杯の般若湯と、五十文が鳥目とをたびて給べ候え、八景の名所名所、洩《も》れなく御案内を致そうずるにて候」
「何か七《しち》むずかしいことを言っているが、何かい、酒を一杯飲ませてくれて、五十貰えば八景の名所案内をしてくれるとでもいうのかい」
「さん候《ぞうろう》、何《いず》れもの旦那衆にさように勧進《かんじん》を申し上げて御用をつとめまいらせ候、今法界坊とは、やつが
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