《うらや》んだり、羨ましがられたりしているところへ、群衆を押分けて、のそりのそりとお角さんの舟へ近づいた異形《いぎょう》のものが一つありました。
 頭はがっそうで、ぼうぼうとしている。身にはやれ衣[#「やれ衣」に傍点]をまとい、背中に紙幟《かみのぼり》を一本さし、小さな形の釣鐘を一つ左手に持って、撞木《しゅもく》でそれを叩きながら、お角さんの舟をめがけて何かしきりに唸《うな》り出しました。
 その姿を見ると、芝居でする法界坊の姿そのままですから、あほだら経でも唸り出したのかと見ればそうでもなく、謡《うたい》の調子――
「秋も半ばの遊山舟、八景巡りもうらやまし、これはこのあたりに住む法界坊というやくざ者にて候、さざなみや志賀の浦曲《うらわ》の、花も、もみじも、月も、雪も、隅々まで心得て候、あわれ一杯の般若湯《はんにゃとう》と、五十文がほどの鳥目《ちょうもく》をめぐみ賜《たま》わり候わば、名所名蹟、故事因縁の来歴まで、くわしく案内《あない》を致そうずるにて候、あわれ、一杯の般若湯と、五十文の鳥目とをたびて給《た》べ候え、なあむ十方到来の旦那様方……」
 こんなことを謡の文句で呼びかけるもの
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