ざりませぬ、この子を引廻し、使いこなすのはあれに限ったものでございます――いったい、人を見て使うということも器量の要る仕事でございますけれども、使われる方もまた、主と頼む人をよくよく見込んでかからなければならないのでございますが、この点におきましては、藤吉郎よりは虎之助の方がどのくらい恵まれているかわかりません。そこへ行くとわたしたち母子は幸運者でござります、こうして易々《やすやす》と藤吉郎に頼みさえすれば大安心でございますが、藤吉郎が主人を見立てて、この人ならばと頼み込むまでには容易なことではございませんでした。もともと尾張中村の賤《いや》しい土民生れでございますから、一族郷党に優れた取立てがあるというわけではございませんし、自分の身に何の箔《はく》がついているわけではございません、乞食同様になって諸国を流浪の揚句が、ようやくこの人ならばと思う主人を自分で見出しまして、自分でその人のところへ押しかけ奉公を致しまして、やっと草履取《ぞうりとり》に召使われましたのが運のはじめでございました。藤吉郎はあれで天下第一等の苦労人でございます、世間では天下第一等の幸運者のようにも申しますが、わた
前へ 次へ
全439ページ中223ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング