ざりました」
「ははあ――」
「わが子を賞《ほ》めるは馬鹿のうちと申しますが、まあ、お聞きくださいまし、八歳《やっつ》の年の時でござりました、村の子供と大勢して遊んでおりますと、そのうちの一人が、過《あやま》って井戸へ落ちてしまったのでござります、そう致しますと、子供たちのこととてみんな驚き、あわてふためいて、どうしようという気にもならないでおりますと、この虎之助が、まず急いで自分の着物を脱いで裸になると共に、子供たちみんなに同じように裸にならせて、その帯を集めて、結び合わせて長くして、子供たちに、『君たちはこの端を上で持っておれ、わたしは下へ降りて行って助けて来る』と言って、自分はその帯をつかまえて井戸の底へ下って行き、溺《おぼ》れている子供を抱き上げ無事に救って上りました。それからまた……」
「どうぞ、御遠慮なくお聞かせ下さい、たしかに凡物ではありませんな、八歳の年で、その危急の場合にそれだけの沈勇があるとは、そういうお話は決して子供自慢には響きませぬ、自慢としてもそういう自慢なら、あらゆる親の口から聞かせてもらいたいくらいです」
「では、お言葉に甘えて、なお申し上げることと致しま
前へ
次へ
全439ページ中221ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング