の父と申しますのが、あなた、弾正右衛門兵衛と申しまして、つまり、わたくしの連合いなのでございますが、三十八歳の時に、これが三歳《みっつ》の年に歿してしまいました」
「それは、それは――」
「それから、こうして今日まで、後家の手一つで育て上げはいたしましたが、後家ッ子だからと人に笑われるのは残念でございますし、それに、田舎《いなか》に置きましては、武士の行儀作法をも覚えさせることはできませんから、思い切って連れて参りました。父の弾正さえ生きておりますれば、わたくしがこうして引廻さなくもよろしいのでございますが……」
「ははあ、そなたのお連合い、そのお子さんの父親も弾正と申されましたか。実は拙者の父も同じ名を名乗っておりました」
「さようでござりましたか、それは、どうやらお懐《なつ》かしいことでございます。なんにいたしましても、男の子は男親につけませんと、母親ばかりではどうしても躾《しつけ》が足りません、それにあなた、この子がそう申してはなんでござりますが、生れつき心が優しく、武勇の気が強いのでござりまして、親の慾目とお笑いになるかも知れませんが、わたくしとしては相当に見込みをつけたのでご
前へ
次へ
全439ページ中220ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング