置かないのは、送り狼そのものを眼中に置かぬ狼以上虎豹の勇に恃《たの》むところがあるか、そうでなければ全然、人を信ずることのほかには、人を疑うということを知らぬ太古の民に似たる悠長なる平民に相違ない。
そこで、この三箇が相擁して、胆吹から長浜道へ向けて、そろりそろりと歩き出しました。
そうして、また途中、極めて心置きなき問答が取交わされました。
「どちらからおいでなされた」
と黒い姿の方は、相変らず存外打ちとけた話しかけぶりでした。提灯の賢母は最初からあけっ放しの調子で、
「尾張の国の中村から参りました」
「尾張の中村――」
「はい」
「それはずいぶんと遠方ではござらぬか」
「左様でございます、ここは近江の国、美濃の国を一つ中にさしはさんで、これまで参りました」
ついぞこの辺の里の女童《おんなわらべ》の夜明け道と心得ていたが、尾張の中村から三カ国をかけての旅路とは、ちょっと案外であった。
「それはそれは、なかなか遠方からおいでだな。そうして、長浜へは何の御用で?」
と黒い姿。
「あれに親戚の者がおりまして」
「親戚をたずねておいでなのですか」
「はい、木下藤吉郎と申します、あれが今
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