意なきことを表明してやる方法を講ずるのが隣人の義務なのです。ところが、こちらには一向にその辺の好意の持合せがないと見え、先方は遠慮なく近づき迫って来て、光は薄いながら提灯の灯《ひ》の届く距離の間で、早くも異風を気取《けど》ってしまいました。
「おやおや、どなたかおいでなされますな」
 気の弱いものですと、この際、これだけの事態で、もう口が利けなくなって、腰を抜かし兼ねまじき場合であったのですが、先方はたしかにこちらの異風を認めて、しかとその地点に踏み止まったにかかわらず、意外なのは、それが女の声で、しかも存外しっかりして、地に着いているのはその足許だけではありません。その声だけで判断しても、しっかりしてはいるけれども女の声には相違ないが、決してお雪ちゃんやお銀様のような音調や色合の声ではありません。むしろ良妻とか、賢母とかいうべき性質《たち》の、しっかりした調子で、「どなたかそれにおいでなされますな」と言葉をかけたのですが、こちらは無言でした。こちらからすべきはずの予備認識を以て隣人の義務を果さないのみならず、先方からの挨拶にも答えないというのは非礼を極めている、というよりは、害心をい
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