だいていると判断してもさしつかえないでしょう。ところが賢母としての今の女の人の後ろに、清くして力のある子供の声が続いて起りました。
「お母さん、誰かいるの」
「ああ、それにどなたかおいでになります」
 そこでいったん踏み止まって多少の躊躇《ちゅうちょ》をしたけれども、それが済むと、この母と子は合点をして、その無言で突立った黒い姿の前をずんずんと通り抜けにかかりました。
 何でもないことのようですが、それはかなり大胆不敵な挙動と言わなければなりません。
 繰返して言えば、自分たちは礼儀をもって一応挨拶を試みたのに、先方は、その挨拶を返さないのみか、道路の真中よりは少し後ろへ寄っているにはいるらしいが、この場合、真中に立ちはだかっていると見て差支えない、それを一歩も譲ろうとさえしないのです。聴覚の全然喪失した不具の人でない以上、たしかにこちらに対して寸毫《すんごう》も好意を持っていないものの態度、しかも、篤《とく》と闇を透して見れば、覆面をして長い二つの、触《さわ》らば斬るものをさして突立っているのですから、無気味ということの以上を通り越して、害意もしくは殺意をさしはさんだ悪人と見るのが至
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