お見知り置きが願えてえ」
「ナニ、四《よ》ツ谷《や》鳶《とんび》だって――」
 無躾《ぶしつけ》に下駄っかけが頓狂声を揚げたのを、
「おお、これは、よた村[#「よた村」に傍点]の先生、よくござったの、かねて御高名は承り及びました」
 木口親分が、愛想を言って、とりつくろいました。よた村[#「よた村」に傍点]なにがしと通人が名乗ったのを、そそっかしい下駄っかけが、よつやっとんび[#「よつやっとんび」に傍点](四ツ谷鳶)と早耳に聞いてしまったのでしょう。それを取りつくろって木口親分が、
「先生、江戸はどちらでござるな」
「わっしゃあ、江戸は江戸だが、江戸を十里離れて……」
「え、江戸を十里離れて……」
「武州八王子の江戸ッ子でがんす」
「八王子の江戸ッ子……」
 一座がここで、またちょっとテラされました。江戸ッ子ということに重きを置いて、江戸はどこと聞いたら、神田とか、本所深川とか、見栄にも切り出すものと期待していると、江戸ッ子は江戸ッ子だが、江戸を十里離れた武州八王子出来の江戸ッ子と聞いて、一座が早くも興ざめ面《がお》になったのを、そこは老巧なみその浦のなめ六が、体《てい》よく取りつくろ
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