で道庵を取逃がした以上は、第二の作戦に彼等が窮してしまいました。安直が悲鳴に類する叫びをあげて、江戸ッ子、江戸ッ子と続けざまに叫んだのは、もうこの上は毒を以て毒を制するの手段、つまり、江戸ッ子を以て江戸ッ子を抑えるの手段に出でるほかには詮方《せんかた》無しとあきらめたものでしょう。
ところが――この一座に江戸ッ子が一人もいない、一座が荒寥《こうりょう》として、悲哀を感じたのはこの時のことでありました。
ところへ、どうでしょう、にわかに表の方に人のおとずれる物音あって、
「親分――兄い、変なところでお目にかかりやすが、まっぴら御免くだんせえ」
と、また一種変ったなまりの声が聞えて、襖が左右へあけられたと見ると、そこへ現われたのは、江戸相撲で三段目まではとり上げた松風という相撲上りでありました。
三十八
「おお、松風、いいところへ」
「どうして、ここがわかったエ」
「いや、道中、ちっと聞き込んだものでごんすから、多分、丁馬親分や、安直兄いもこちらでごんしょうと、わざわざたずねて来やんした」
「よく来てくれた、一人か」
「ほかに、連れが一人ごんす」
「じゃ、こっちへ
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