ても、今時、この胆吹山の山腹あたりに、十八文の先生風情に向って誘惑を試むべく、ふくらっ脛《ぱぎ》の白いところを臆面なく空中に向って展開しているような、洒落気《しゃれけ》満々たる女があろうとは思われないし、また、先刻の大きな鷲《わし》にしてからが、良弁《ろうべん》とか弁信とかいったような可愛らしい坊主の頭の一つもあれば、さらってみようとの出来心を起すかもしれないが、この薄汚ない、拾ったところで十八文にしかならない老爺を、わざわざ重たい思いをして空中まで引き揚げてみようという好奇心も起らないでしょう。
してみれば、道庵先生が今晩このところへのたり着いたのは、結局、脱線でもなく、無軌道でもなく、墜落でもなく、要するに尋常一様の平凡にして最も常識的なる行動のとばっちりと見るほかはないので、事実もまたその通り。その最もよく証明するところのものは、この時に至るまで、今も現に縦の蒲団《ふとん》を横にしてのたり込んだ寝床の中までも、しかと片手に握って放さないところの一片の草根木皮が、それを有力に説明するのであります。
道庵先生こそは、実に薬草を採取すべく、乃至はそれを調査すべく道を枉《ま》げて、こ
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