の胆吹山に入りこんだのであります。
 医者が薬草をとる――天下にこれほど当然にして常識的な行動はない。酒屋が酒を売り、餅屋が餅を売り、車曳《くるまひき》が車を曳き、犬が西へ向けば尾が東ということほど、自然にして通常な行動であり、ことにまた、その胆吹山という山が薬草の豊富を以て天下に聞えた山であるという以上は――それは明らかに歴史も証明し、実際も裏書きする――織田信長が天主教に好意を持っていた時分に、この山を相して薬園の地とし、外国種の薬草三千種を植えたという事蹟は動かせないことだし、更にその以前に遡《さかのぼ》って見ると、延喜式の中に典薬寮に納むる貢進種目として「近江七十三種、美濃六十二種」とある薬草は、そのいずれの方面よりするも必ずや、この胆吹山によるところの薬草が大部、ほとんど全部を成しているであろうことは信ぜられるのですから、いやしくも医学に志あり、本草に趣味を有する人にとっては、この胆吹山は唯一無二の宝の山といってもよいのです。されば、職に忠実であり、学に熱心であるところの日頃心がけのよい道庵が、この山に突入することが当然で、突入しないことがむしろ外道《げどう》であり、怠慢であ
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