ごらんなさい、友さん、お前にはおかみさんは無いでしょう」
「ばかにするな、こん畜生!」
「怒らないでさ。お前さんにおかみさんが無いように、わたしにも御亭主というものはありません、ですから、二人が、ここで一緒に寝ようとも、起きようとも、誰が咎《とが》める者がありましょう」
「ばかにするなよ、この阿魔《あま》!」
「ばかになんぞしちゃいませんよ。それからねえ、友さん、お前さんだって、男でしょう、わたしだってこれでも女の端くれなのよ、女が男に惚れておかしいということがありますか、男と女とは、許すもののように出来ているのが本当で、許されないというのは、神代からの掟《おきて》ではないのです」
「ふざけるな! いいかげんにしろ!」
「何がふざけるのですか、友さん、ごらんなさい、あの奥の間で、二人の仲のよいこと、あれは何ですか、一方が眼が見えようとも見えまいとも、男は男に相違ない、一方は、まだ世間知らずとは言いながら、油断のならない、小娘だって女のうちじゃありませんか、その男と女の二人がああして仲よく奥の一間にいるのを、友さんは何とも驚きもしない、咎めもしないで、おとなしく張番をしていながら、それと
前へ
次へ
全439ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング