ったけれど、まさかお銀様であろうことを、米友が睨み足りなかったことに起ったこの場の番狂わせ――

         三十一

「友さん、入ってもいい?」
とお銀様から言われて、米友が、
「うむ」
と答えざるを得ませんでした。
 米友としては完全なる拍子抜けです。拍子抜けというよりも力負けなんでしょう。立合で言えば全く気合を抜かれてしまったのですから、技《わざ》も、力も、施す術《すべ》がないので、相手にイナされようとも、突き出されようとも、御意《ぎょい》のままなのです。
 そこで、当然、お銀様が米友をリードしてしまって、進んで例の戸口から、この家の中へ大手を振って――暴君とは言いながら女のことですから、形式に於て大手を振るような振舞はなかったけれども、ずっとその昔、本所の弥勒寺長屋で米友から、厳しい咎めだてを蒙《こうむ》りながら、ついに屈することを為さなかった、覆面のまま人の座敷へ進入する、その傲慢無作法だけは今晩も改めないで――ずっと座敷へ、以前、お雪ちゃんも坐り、奇怪千万な剃刀の使い手も坐り、現在は米友が快く夜船を漕いでいた当時の炉辺へ来て、然《しか》るべきところへお銀様が、米友に先
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